一番大事なもの

2004年3月22日
日記を書いていない間に
また色々と変化があった。




弘史が見つかったのだ。




この世にはもういないと思われていた弘史が
見つかったのだ。






今までとは別人になって。






弘史はずっと、ホームレスをしていた。

あんなにかっこよかった男が
誰も近寄りたくないみすぼらしい姿で
私の前に現れた。





最初私はわからなかった。




*******



何もかもめんどくさくなっていた私は
大樹と離れることを決めた。





しばらくは、ひとりにしてもらいたかった。





たったひとりの男のために
こんなにも落ちていく私を一番愛した人に見られたくなかった。





しばらくひとりの生活が続き、
ほとぼりも冷めてきた奥さんからの電話もなくなっていた。





*******



弘史が現れたのは本当に突然だった。
私のマンションのある最寄り駅にいた。




汚い格好をしていて、匂いもあって
私に近づいてきたときは、正直怖かった。





「俺だよ。弘史だよ。彩香!!」




よく見ても弘史だとはわからずに、
ただひたすら逃げた。





「わかってくれよ。本当に俺なんだよ」





マンションにまでついてきて、
周りの人はじろじろみるし、本当に嫌だった。




弘史という確信もなかったし
何しろ汚かったから、近寄りたくもなかった。





それでも、マンションの前から離れないし
苦情がきても嫌だったので
うちに置いていっていた大樹の着替えと、旅行用のシャンプー
ボディシャンプーとタオルとかみそりとゴミ袋を弘史に渡した。

「とりあえず、どっかで体洗ってきて。
 今着てる服は、これに入れて捨ててきて」

というメモを添えて。




*******



数時間後現れた彼は確かに弘史だった。
髪も伸びて面影を思い出す程度だったけど
確かに弘史だった。





そして、真っ先に私は奥さんに報告した。
弘史には止められたけど…。




「弘史さんがここに来ました」と。





奥さんの流産のこと、奥さんの気持ち。
全部話した。





奥さんがうちに到着するまでの間もう一度弘史を
うちのおふろに入れた。




それから彼は私を抱きしめた。





「いままでごめん。どうしてこんなに痩せた?」


と、弘史が泣くのをみて、私も涙が止められなかった。




奥さんからどんなに嫌がらせを受けていたかは
言わないほうがよさそうだ。






奥さんが駅についたことを聞き
ふたりで駅に向かう。






そこで、確かに弘史を奥さんに返した。





奥さんはその場で泣きじゃくり
私に一言、「ありがとう」と言い残し帰っていった。





弘史がどんなに汚い姿であったかも言わなかった。





私と弘史とのせめてもの秘密。






これで、私は本当にひとりきりになったのと同時に
もう二度とこんな過ちを繰り返さないと心に決め、
一番愛した人にもう一度、告白しに行こうと思う。





大事なものはいつも手に入らない。




きっと、大樹からは「NO」の答えが返ってくることだろう。

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